大阪地方裁判所 平成9年(ワ)5987号 判決 2000年1月12日
原告
向井則子
被告
中野克彦
主文
一 被告は、原告に対し、金六七〇万〇六八九円及びこれに対する平成四年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金三六一五万六二〇五円及びこれに対する平成四年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 1項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(本件事故)
(一) 日時 平成四年九月二八日午後三時四〇分ころ
(二) 場所 大阪府守口市浜町二丁目二二番地(国道一号線)先路上
(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪七七も六一九二)
(四) 被害車両 原告運転の足踏式自転車
(五) 態様 被告は、左折し国道一号線に出ようとした際、左方道路が立て看板等により見通しが悪いにもかかわらず、右側から進行する車両に気をとられ、左方道路の安全確認を怠り左折進行した過失により、折から、被害車両に乗り同左方道路を直進してきた原告に加害車両を衝突させて転倒させ、よって、原告に左膝脛腓骨々折の傷害を負わせた。
2(責任)
被告は、本件事故現場において、国道一号線に出る際、左方道路が立て看板等により見通しが悪いために、左方道路の安全確認を十分になす義務があるにもかかわらず、これを怠って左折進行した過失により、被害車両に乗り同左方道路を直進してきた原告に加害車両前部を衝突させたものであって、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。
3(治療経過)
原告は、次のとおり治療を受けた。
(一) 医療法人弘道会守口生野病院
平成四年九月二八日から平成五年一月二一日まで入院一一六日間
(二) 関西医科大学附属病院
(1) 平成五年一月二二日から同年二月一〇日まで通院
(2) 平成五年二月一一日から同月二一日まで入院一一日間
(3) 平成五年二月二二日から平成七年二月二〇日まで通院
(4) 平成七年二月二一日から同年三月三日まで入院一一日間
(5) 平成七年三月四日から平成九年一月一六日まで通院
(6) 平成九年一月一七日から同年六月二〇日まで入院
4(後遺障害)
(一) 原告は、平成六年六月三〇日、左膝関節の可動域制限、同関節の側方動揺性、左脛骨プラトー部外側の骨欠損及び変形治癒の後遺障害があるものとして症状固定の診断を受け、一二級七号該当との等級認定を受けた。
(二) ところが、その後の経過が思わしくなく、更に悪化し、左膝関節の動揺性が酷いため、右症状固定後の平成七年二月二一日から同年三月三日まで入院し、手術により関節鏡による検査を行った。
右検査の結果、動揺性は骨欠損によるものであることが判明し、今後外傷性膝関節症の発症は必発であり、向後疼痛の増強状況により人工関節にするための手術が必要であって、当面休業安静が必要であるとの診断を受けた。
(三) 原告は、症状固定後一旦は職場に復帰したものの、右手術及びその後の安静休業を要するとの診断により休業を余儀なくされている。
(四) 右診断のとおり、原告は、前記症状固定当時の後遺障害が更に悪化し、人工関節を必要とする状態にあるが、人工関節の耐用年数から、できるだけ人工関節挿入置換を遅くさせようとの治療方針が採られ、骨移植等様々な方法での治療が継続されてきたものの、平成一〇年二月四日、結局人工関節置換手術以外は不可能であるとの診断がなされ、同日、自賠責保険後遺障害等級八級七号に該当する後遺障害が残り、症状固定した。
5(損害)
(一) 入院雑費 四〇万一七〇〇円
一日一三〇〇円、入院日数三〇九日
(二) 休業損害 一一六二万七五一三円
休業期間平成六年七月二一日から同年九月四日まで及び平成七年二月二一日から平成一〇年二月三日までの期間につき、平均給与月額三一万七一一四円を基礎に算出した。
(三) 傷害慰謝料 三〇〇万円
(四) 後遺障害慰謝料 八一九万円
(五) 逸失利益 二一五八万一五七二円
本件事故前の原告の平均月収三一万七一一四円を基礎に、就労可能年数に対応するホフマン係数一二・六〇三、八級の労働能力喪失率〇・四五を乗じたもの
(六) 弁護士費用 三〇〇万円
よって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償の一部請求として、金三六一五万六二〇五円及びこれに対する本件事故の日である平成四年九月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2は認める。
2 同3は知らない。
3 同4のうち、(一)は認め、その余は知らない。
原告の左膝関節部の症状は、平成六年六月三〇日、症状固定している。
4 同5は知らない。
三 抗弁
1(過失相殺)
本件事故は、被告がT字型交差点において、北から東へ左折進行するに当たり、同交差点の停止線直前で一時停止したが、見通し可能な位置で再度一時停止せず、西方道路から進行してくる車両の有無に気をとられ、東方道路歩道上の安全を確認することなく、時速約五キロメートルで左折したところ、東方歩道上から西進してきた原告の運転する被害車両と加害車両前部が衝突したものであるが、原告にも見通しの悪い交差点において、漫然直進進行した過失がある。
したがって、原告にも少なくとも二割の過失がある。
2(損害填補)
(一) 治療費 二七六万二七一〇円
(二) 任意保険会社から原告への支払 一〇七七万七七〇〇円
(三) 自賠責保険金 二二四万円
(四) 労災保険休業補償給付 五三二万〇六一六円
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は争う。
2 同2は認める。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(本件事故)、2(責任)は当事者間に争いがない。
二 請求原因3(治療経過)
1 証拠(乙二、三の1、2、四の1ないし3、五ないし八、証人中川琢磨)によれば、原告は、本件事故による左膝脛腓骨々折の治療のため、次のとおり入通院したことが認められる。
(一) 医療法人弘道会守口生野病院
平成四年九月二八日から平成五年一月二一日まで入院一一六日間
平成四年一〇月七日、骨接合術施行
(二) 関西医科大学附属病院
(1) 平成五年一月七日から同年二月一〇日まで通院(実通院日数一九日)
(2) 平成五年二月一二日から同月二三日まで入院一二日間
平成五年二月一五日、左膝関節鏡検査、鏡視下癒着剥離術、関節授動術、抜釘術施行
(3) 平成五年二月二四日から平成六年六月三〇日まで通院
同病院整形外科医師中川琢磨は、平成六年六月三〇日、原告の左膝関節の症状は、次の状態で症状固定したと診断した。
<1> 自覚症状
歩行時の左膝関節痛と不安定感、長時間立位での左膝関節痛
<2> 他覚症状及び検査結果
左膝関節の可動域制限、左膝関節の側方動揺性、レントゲン像で左脛骨プラトー部外側の骨欠損と変形治癒を認める
<3> 関節機能障害
他動
自動
右
左
右
左
膝関節
屈曲
一四五度
一三五度
一四五度
一三〇度
伸展
〇度
〇度
〇度
〇度
<4> 傷害内容の増悪・緩解の見通しなど
障害内容は、左膝関節の側方動揺性に起因するものであり、長時間の立位、歩行は困難である。
また、歩行に際し、杖等による介助や装具による固定が必要で、向後、外傷性の関節症変化は必発であり、将来手術が必要と考える。
2 原告は、平成六年六月三〇日以後も関西医科大学附属病院で入通院治療を受けているが、前記症状固定の診断時の状況から症状の変化はほとんどない。
以上の事実が認められる。
右認定の事実によれば、原告の本件事故による傷害は、平成六年六月三〇日をもって症状固定したというべきであり、その後の入通院治療は本件事故と相当因果関係を認めるには至らない。
なお、甲第五及び第六号証には、平成七年二月二一日から同年三月三日までの関西医科大学附属病院での入院、再手術は、左膝関節痛及び左膝関節の動揺性、特に膝関節の不安定性による動揺性が強く、膝関節の不安定性が軟部組織に起因するものか、骨性のものか確認する目的で関節鏡検査(手術)を施行したもので、その結果、膝関節に不安定性は、軟部組織に起因するものではなく、骨欠損によるものと判明したが、術前術後で膝関節の可動域や不安定性については不変であった旨の記載があるが、原告の膝関節の側方動揺性の原因は、平成六年六月三〇日時点で既に前記認定のとおり左脛骨プラトー部外側の骨欠損と変形治癒が認められており、平成五年二月一五日に関節鏡検査も実施されていたのであるから、右により新たな事実が付け加えられたものではなく、前記症状固定時期の認定に差異をもたらさない。
三 請求原因4(後遺障害)
1 原告が、平成六年六月三〇日、左膝関節の可動域制限、同関節の側方動揺性、左脛骨プラトー部外側の骨欠損及び変形治癒の後遺障害があるものとして症状固定の診断を受け、一二級七号(一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの)該当との等級認定を受けたことは当事者間に争いがない。
2 原告の後遺障害の主たるものは、前記認定のとおり左膝関節の側方動揺性であり、歩行に際し、杖等による介助や装具による固定が必要である状態であるから、原告の右後遺障害は後遺障害等級表の八級七号(一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの)とまではいえないが、一〇級一一号(一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの)に該当するものというべきである。
なお、甲第七号証(関西医科大学附属病院医師中川琢磨作成の平成七年一二月一四日付後遺障害診断書)には、膝関節の可動域は、健側である右は自動一四五度、他動一四五度、患側である左は自動一三五度、他動一四〇度と軽度の制限があるのみであるが、左脛骨中枢端の変形治癒による骨性の著しい関節不安定性があり、日常生活で固定装具の装着や杖の使用が必要であるとの記載があるが、証拠(乙六、原告本人)によれば、原告は、日常生活では常に固定装具を装着しているものではないことが認められるから、右証拠により前記認定が左右されるものではない。
また、将来において、人工関節手術を施行する可能性も認められるところではあるが、可能性にとどまっており、前記認定を左右しない。
四 請求原因5(損害)
1 治療費 二七六万二七一〇円(争いがない。)
2 入院雑費 一六万六四〇〇円
本件事故と相当因果関係のある入院期間は合計一二八日であるから、一日当たり一三〇〇円として、入院雑費は一六万六四〇〇円となる。
1300円×128日=16万6400円
3 休業損害 六六五万九三九四円
証拠(甲八、原告本人)によれば、原告(昭和二三年四月一八日生)は、本件事故当時モリテツ電機株式会社に勤務し、本件事故前年の平成三年には年三八〇万五三七七円(月額三一万七一一四円)の給与収入を得ていたこと、本件事故日後症状固定日である平成六年六月三〇日までの二一か月間休業したことが認められるから、この間の休業損害は、六六五万九三九四円となる。
31万7114円×21か月=665万9394円
4 傷害慰謝料 一八〇万円
原告の受傷の部位及び入通院状況からすると、傷害慰謝料は一八〇万円と認めるのが相当である。
5 後遺障害慰謝料 四四〇万円
原告の後遺障害の内容からすると、後遺障害慰謝料は四四〇万円と認めるのが相当である。
6 逸失利益 一四四九万一一八〇円
原告は、症状固定時四六歳であるから、就労可能年数二一年、労働能力喪失率二七パーセントとして、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、逸失利益の現価は、次の計算式のとおり一四四九万一一八〇円となる。
380万5377円×0.27×14.104=1449万1180円
五 抗弁1(過失相殺)
争いのない請求原因1(本件事故)、2(責任)に証拠(乙一の1ないし5、7、原告本人)を総合すると、<1>本件事故現場は、中央分離帯の設置された歩車道の区別のある片側二車線の東西方向の道路(以下「本件道路」という。)に北西方向から幅員六メートルの道路(以下「交差道路」という。)が合流するT字型交差点であり、交差道路の交差点手前には一時停止規制がなされている、<2>被告は、加害車両を運転して交差道路から本件道路に左折進行するに当たり、同交差点の停止線直前で一時停止したが、同地点からは立て看板等のため本件道路北側に設置された歩道上の自転車、歩行者等を確認し難い状況であったが、見通し可能な位置で再度一時停止することなく、本件道路の西から進行してくる車両の有無に気をとられ、東方歩道上の安全を確認することなく、時速約五キロメートルで左折したところ、東から歩道上から西進してきた原告の運転する被害車両と加害車両前部が衝突した、<3>原告は、交差道路から加害車両が進行してきていること、被告が西側の方を向いており、原告の方を注意していないことを認識しながら、加害車両が停止し、被害車両を通過させてくれるものと考えて歩道上から加害車両の進路前方に進出し、同車両と衝突した、ことが認められる。
右に認定の状況からすると、原告にも進路前方の安全を確認し、それに応じて運転操作をすべきであったのにこれを怠った過失があり、前記損害額からその一割を過失相殺するのが相当である。
前記損害額からそれぞれ一割を控除すると、次のとおりとなる。
1 治療費 二四八万六四三九円
2 入院雑費 一四万九七六〇円
3 休業損害 五九九万三四五四円
4 傷害慰謝料 一六二万円
5 後遺障害慰謝料 三九六万円
6 逸失利益 一三〇四万二〇六二円
六 抗弁2(損害填補)
1 治療費 二七六万二七一〇円
2 任意保険会社から原告へ 一〇七七万七七〇〇円
3 自賠責保険金 二二四万円
4 労災保険休業補償給付 五三二万〇六一六円
の支払がなされたことは当事者間に争いがないから、前記損害額のうち、休業損害及び逸失利益の合計一九〇三万五五一六円から労災保険休業補償給付の五三二万〇六一六円を控除し(一三七一万四九〇〇円)、これにその余の損害額を合計した二一九三万一〇九九円から右1ないし3の合計額一五七八万〇四一〇円を控除すると、六一五万〇六八九円となる。
七 弁護士費用(請求原因5(六)) 五五万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は五五万円と認めるのが相当である。
八 よって、原告の請求は、六七〇万〇六八九円及びこれに対する本件事故の日である平成四年九月二八日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 吉波佳希)